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図録表紙 |
火 ―人と火の関わりを探る―
火の利用によって、人は他の動物に対し圧倒的に優位にたつことになった。中国の周口店洞穴で北京原人の人骨とともに、焚火の跡や焼けた獣骨が発見され、人が火を使った最も古い証拠の一つとなっている。
現代人にとっても欠かすことの出来ない火。今回の展示では、人と火の関わりを「火をおこす」「火をつかう」「火といのり」の三つに焦点を絞って探ることにする。
おこす ―火をつくる―
発火法には、摩擦・打撃・圧縮などがある。日本列島では縄文時代以来、火鑽杵と火鑽臼を用いた摩擦法が行われ、奈良時代以降には確実に火打金と火打石を用いた打撃法が出現する。中世以降は、打撃法が庶民の発火法として広く行なわれるが、摩擦法も神事等で伝えられてきた。マッチが日本で作られる明治8年(1875)以降も、火打道具は存続した。
摩擦式発火法
摩擦式の発火には、火鑽臼と火鑽杵が必要である。火鑽臼を固定し、くぼんだ穴に火鑽杵をあて、回転により摩擦を加えると、煙が出 始める。さらに回転を加えると、火鑽臼・火鑽杵ともに磨り減って、木屑が出てくる。
打撃式発火法
打撃式の発火には、火打金と火打石が必要である。火打石に、火口(ガマの穂などを蒸焼きにした物)をのせる。火打石に火打金を打ち付けると、火花が発生し、その火花が火口に付く。くすぶる火口に、付木(薄板に硫黄を塗った物)をつけると、炎ができる。
つかう ―実用的な火―
火は調理・照明・採暖に用いられるとともに、土器製作など各種の生産にもつかわれた。日本列島において、炉は旧石器時代終末には確実に存在し、縄文・弥生と続いて、古墳時代中期に朝鮮半島より竈がもたらされる。竈の出現とともに、甑で米を蒸すことが行われるようになった。
炉と調理具
炉は調理・照明・暖房の各機能を備えている。縄文時代は資料7のような深鉢を用いて煮炊きをした。写真は弥生時代の円形竪穴住居で、中央に炉が見られる。米などの煮炊きに使われた弥生時代の甕には、外面に煤が付着している。
竪穴住居と炉 大野中遺跡(海南市) 弥生中期
左:甕 田屋遺跡(和歌山市) 弥生後期 右:甕 井辺T遺跡(和歌山市) 弥生後期
竈と調理具
つくり付け竈は5世紀に朝鮮半島からもたらされた。写真は、住居の壁に沿って煙道がオンドル状にのびる竈をもつ。資料9は竈に装着するため長胴化した甕である。
竪穴住居と竃 田屋遺跡(和歌山市) 古墳中期
左:土師器甕 音浦遺跡(和歌山市) 古墳中期 右:韓式系土器甑 音浦遺跡(和歌山市) 古墳中期
竪穴住居(古墳時代)の竈 紀伊風土記の丘(和歌山市) 復元
移動式竈
5世紀に、釜(甕)・甑とセットになる移動式竈が朝鮮半島よりもたらされる。奈良時代の文献に見られる「韓竈」である。日常の炊飯用ではなく、おもに祭祀に使われたとする説もあるが、明確ではない。
照明
灯明皿は菜種油などを燃やすもので、仏教の伝来とともに本格的に使われるようになった。油には胡麻油・荏油・魚油・動物油などがつかわれた。油は灯芯によって吸い上げられ、江戸時代以降はイグサの髄の加工品が広く普及した。
左:灯明皿(土師器台付皿) 鳴神U遺跡 (和歌山市) 平安 右:灯明皿(土師器皿) 根来寺坊院跡(那賀郡岩出町) 中世
土師器火灯 根来寺坊院跡(那賀郡岩出町) 中世
採暖
竪穴住居では、炉や竈の火がそのまま暖をとるのに使用された。炭火で暖をとる手焙に似た手焙形土器は、実際の用途は不明であり、笹ノ瀬遺跡例は山の斜面より4点が一括して出土している。中世以降は火鉢や手焙が多数出土し、こうした道具が富裕層や寺院などで使われたことが分かる。
左:手焙形土器 笹ノ瀬遺跡(海草郡美里町) 弥生後期 右:瓦器火鉢 根来寺坊院跡(那賀郡岩出町) 中世
土器焼成
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藁を敷いた上に薪を3段ほど交互に並べ、乾燥した土器を置く。 | 土器を藁で覆ってしまう。 | |
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荒く練った粘土を藁全体に塗り、覆ってしまう。 | 粘土に数か所の穴を開けて、空気が抜けるようにする。 |
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いのり ―精神的な火―
一切を焼き尽くす火は穢れを払う神聖なものと認識された。現在に伝承されている県内各地における火の祭は、火の神聖さを如実に示している。後期古墳の横穴式石室から、渡来人との関係が考えられるミニチュア竈セットが出土することがあり、古墳における炊飯儀礼を示すものと考えられている。
ミニチュア竈
滋賀県大津市や奈良県桜井市、大阪府柏原市等にミニチュア竈セットを副葬する古墳が集中している。こうした古墳からは今回展示している青銅製釵や釧などの渡来系遺物も出土することから、ミニチュア竈セットは、渡来人の炊飯儀礼に関係するものと考えられている。
左:ミニチュア竃セット 船戸山3号墳(那賀郡岩出町) 古墳後期 右:ミニチュア竃セット 後口谷1号墳(田辺市) 古墳後期